■請願書提出の経緯■
すでにご存知の方も多くいらっしゃると思いますが、2003年11月に、6頭のシェパードがまとめて東京都の保健所に持ち込まれました。 飼い主による放棄です。この手続き自体に問題はありません。狂犬病予防法の規定により、どうしても飼えなくなった犬の処分のための受け入れを、行政は了解しているからです。ただし持ち込みの場合は、飼い主が探しに来る可能性がないため、即日処分対象になってしまいます。
現在、東京都は収容動物の殺処分数減少に努力しつつ、近隣と良い関係を持って生活する優良ペット飼育者の育成に力を入れています。その一端を担う形で、審査を受けた市民や保護団体に対し、一定の条件下にて処分期限の来た動物の譲渡を行い、保護を委ねています。
今回のシェパードたちも、そうした活動を行っている保護団体との協力体制によって救い出すことができました。当方で保護した5頭の状態は、あきらかな飼育放棄によるひどい健康状態でした。1頭は子宮蓄膿症による緊急手術、その後麻酔から覚めることなく息を引取りました。
残った犬たちも例外なく異様なほどの削痩状態や、皮膚病に下痢、体中にこびりついた糞尿など、まともな状態の犬は1頭もいませんでした。そして、そのうち2頭の右耳が1/3ほど切り取られていました。それがなにを意味するのかは分かりません。

ところで、この犬たちの里親探しのためのHPを立ち上げたところ、犬たちについての多くの情報が寄せられました。これだけの犬が一度に放棄されることは稀なので、愛好者の一部では知られたことだったようでした。
たとえば、今回病気のため世話が一切できなくなってしまい、泣く泣く犬たちを手放した元飼い主は、シェパード界では知る人ぞ知る20年来のシェパード愛好者だったそうです。常時20頭ぐらいのシェパードを所有し、よい血統を残すために日々努力されていたそうで、ショーでの入賞歴も何度もあるそうです。現在もまだ数頭が残されているようです。保健所に放棄された犬達は、売り物にならない「不要犬たち」だったそうです。
突然の病気で倒れたため世話に不自由した元飼い主は、短期間ではなりえない劣悪な状態の犬たちをも所有していたわけです。また不思議なことに、なぜかその犬舎には1頭も高齢の犬がいません。

寄せられた情報がこの犬達のことであると確認できたのは、読み取れた耳番号によって所有者がはっきりしたためでした。耳番号は、欧州では古くから個体識別のために用いられてきた方法ですが、現代においては、耳番号と併用でマイクロチップも導入されてきています。
そして、捨て犬の場合も、この個体番号から、飼い主を割り出すことができるので、国によっては義務付けされている国も増えてきています。今回の犬たちも、読み取れた耳番号から元の所有者が再確認できたわけです。
そしてありがたいことに、この捨てられた犬たちに対し、耳番号を確認できた犬については、血統書が再発行されることになりました。これで、彼らは競技会などにも堂々と参加することができます。また、誕生日を祝ってもらうこともできるようになりました。警察犬協会の寛大な配慮に、心から感謝いたします。

犬達を救出し、現在3ヶ月が過ぎました。
彼らはそれぞれ公認訓練士や愛好者のもとで健康状態の回復をはかりながら、家庭犬としてのしつけを受けています。そして、驚くべきことに、その姿は保護当時のボロ雑巾のようなものから、動物本来の輝くばかりの美しさを持ち始めています。そして、宙を泳いでいた視線は、しっかりと信頼の名のもとに預かり者を見つめるようになってきています。
これから新しい飼い主の下に行って、もっともっと素晴らしい犬達に変身することでしょう。彼らはけっして「不要犬」などではなかったのです。犬達の底力を見せ付けられた思いです。
あんな状態であっても、人間の期待に応えようとする犬達の誇り高さ。それに応えられるのは、彼らの良さを一番知っている愛好者たちであるはずです。
私達の願う犬種協会の本来の仕事とは、その固有の犬種を守り、正しく育て、未来に引き渡すということに他なりません。スタンダードから崩れたものを排除し、正しくスタンダードを維持しつつ、遺伝疾患と戦い、その犬種独自のよさを最大に引き出すためのよいブリーディングの研究をしていくのが本来の姿であって欲しいと願っています。
日本をのぞく各国の犬種協会にはレスキュー部門がほぼ間違いなくあり、愛好家が集まってそれらの飼えなくなった犬たちの第二の家庭を探します。
あわせて、登録業者(訓練士、ブリーダー等)への指導強化(罰則含む)も行なっている国は多く、原産国ドイツなどもその一例であることは、ご存知の通りです。

犬の底力を見せてくれる彼らに対し、人間の底力で応えたい。人間は、彼らの一番の友であるはずなのですから。
「僕達の声を聞いてください」プロジェクト   井上 由理 / 郷 玲子
動物生命尊重の会   会長 金木 洋子